その時刻が近付くにつれ、ぼくはそわそわしていた。
でも外はひどい雨、それでも出かけた嫁と二人。
道中、目的を同じとする人の群れと合流、「何さー この雨」そう憤る人々。
相変わらず微妙な雨が降り続いている。
”果たして花火は予定どおり上がるのか?”
疑問は皆同じようで、「今日花火上がるの?」そんな声があちこちから聞こえる。
交通整理のおじさんも歯切れ悪く
「うーん。上がると思うんですけどねぇ」そう言って空を見上げた。
目的地の大橋に到着。
その橋の下にはまるで難民の様な人の群れ、雨を避けようと皆がひと固まりになっていた。

どう見てもそこにぼくらの入り込む余地はない……
あぶれちゃった。
「濡れてもええわ、ここにしよう」そう言ってそばの土手に座りこんだ。
花火を観るには中々のポイントだと思うのだが、雨の影響をモロに受けるからだろう
土手は不人気だった。
「ガラガラでええやん」
時刻を確認、打ち上げにはまだ早くあと30分といったところ。
こういう時はとりあえず飲む、それぐらいしかすることもない。
「乾杯」
ビールをあおりつつ、しばしの人間観察。
するとさっきまでガラガラだった我が周辺の土手に人が集まってきた。
ぼくらと同様あぶれちゃった人達だ。
辺りも次第と暗くなる。
始まるぞって雰囲気になってきたが、
結局雨は止まなかった、弱い雨が降り続いている。
ああ、曇天花火だな。

一時的に止んだりはするものの怪しい空模様は続く……
まぁ今更天候を嘆いても仕方がないのだ。
パンッ パパンッ
不意打ち、怒りの花火。
”つべこべ うっせー やるぞー”ってな感じ。
「あー あー 始まった」
ぼくらはアットーテキに濡れる花火を観た。

で、
そんな花火を写真に撮ってみたが… うまくいかなかった。
問題は雨ではなくカメラの方。
我が携帯電話に搭載されたカメラはシャッターを押して
いち、にッ と間を置いて パシリッといくので
シャッターポイントが非常に難しい。
「貸して、私がやってみる」そう言って嫁も花火撮影に挑戦したのだが、
何枚か撮った後

「やっぱ無理やわ」言うて撮影を放棄した。
刹那的なものを撮るには適していないようだ。

それから
弱雨はどしゃぶりへと変わった…
ずぶ濡れのぼくら、
”初めて観た札幌の花火、強烈な雨と共に散る”
そんなナレーションが欲しい感じ。
「まるでスコールみたい」どこからかそんな声。
あの日、あの時、札幌はどしゃぶりの雨だった。
それは遠い遠い昨日のこと
”札幌 思い出の曇天花火”。