「ああ やった 大きな海だ」
むじゃきに泳ぐ

まだまだ冷たい海は僕を震え上がらせたが、
海から上がって浴びたシャワーはそれ以上に冷たくて
がたがたと歯を鳴らした
むらさき色したくちびるの僕が
強い風でばたばたとなびくテントに身を寄せる
そこから…
水平線へ沈んでゆく夕陽が見えた
「橙色がうつくしいな…」
ってこともなかった
この日の主役は海でも夕陽でもなく風だったのだから
僕は風に巻かれて酒を飲む 揺られてビール
ウイスキーでごろごろ
そんで
酔っぱらって眠る
…
”そこには夕日が沈んだ海があった
毎日つく小さな嘘が沈んだ海
星が出て 月がのぼった”

…
深夜1時の騒音で目が覚めた
っばっばばばばっばばば
もの凄い風
面倒な現実
テントが半分潰れてる
完全に寝ぼけた頭だが、ぼーっとしてはいられない状況なので
ハンマーを片手に強風吹き荒れる戦場へ…
風に対抗すべくロープでテンションを加え、ペグをしっかり打ちなおした
あとはメインポールが耐えられるかどうか…
テント内から手で押さえたり足で蹴飛ばしたり援護していたけど、
そんなこっちゃ眠れないので諦めた
とにかく寝る
はるばる来た積丹、意地でも撤収は避ける
明るくなった朝5時、
テントにつぶされ目が覚めた
もう限界だった
風は止むどころかひどくなる一方
撤収だ 海を楽しむどころでない
…
テントも裂けてる
「今日はこれでさようなら」
札幌に着いたのは朝7時30分
憂鬱な信号待ち
出勤、通学する人達
海… 風… 昨日の夕焼けベイビー
”あんな顔するだなんてベイビー 何にもいえねえよ”
カーステレオが歌う
僕を追い越して あの娘つれてどこかへ

ああ
この気持ちは
なんの花にたとえられましょうか
野ばらが咲いてた
やつれた僕のそばでふわふわと風に揺れてる